「したい」と「できる」の間の旅

「したい」と「できる」は、人生において私たちが直面する最も基本的な二つの概念です。これらは時に一致し、私たちを喜びで満たしますが、多くの場合、深い乖離を抱え、葛藤や成長の機会をもたらします。「理想や憧れ」は、この「したい」の究極の形であり、私たちの内なる情熱や願望の源です。しかし、それらを現実のものとするためには、「できること」を認識し、それを拡張していくという現実的なプロセスが不可欠となります。そして、このプロセスにおいて、「自己比較」という視点が、私たちの進歩を測る上で重要な羅針盤となります。

私たちの心の中に広がる「したい」の領域は、無限の可能性を秘めています。幼い頃に抱いた夢、学生時代に熱中したこと、大人になってから見つけた新たな目標。これらはすべて、「こうなりたい」「こんなことを成し遂げたい」という内なる声の表れです。しかし、純粋な願望である「したい」と、実際にそれを実現する能力や条件である「できる」との間には、時に大きな隔たりがあります。例えば、「世界一周をしたい」という願望があったとしても、それを実行するための時間、費用、体力、語学力などが伴わなければ、それは「できる」ことにはなりません。この乖離こそが、私たちに課題を突きつけ、成長を促す原動力となるのです。

「理想や憧れ」は、私たちの「したい」の最たるものです。それは、まだ見ぬ高みや、到達したい未来像を私たちに示します。憧れの対象となる人物やスキル、ライフスタイルは、私たちに具体的な目標を与え、日々の行動に意味をもたらします。しかし、理想はあくまで理想であり、そこに到達するためには、現在の「できること」を客観的に見つめ、地道な努力を積み重ねる必要があります。理想と現実のギャップに打ちひしがれるのではなく、そのギャップを埋めるための具体的なステップを考えることこそが、建設的なアプローチと言えるでしょう。

では、どのようにして「できること」を拡張していけば良いのでしょうか。その第一歩は、現在の自分の能力や資源、知識を正確に把握することです。これは自己分析と呼ばれるもので、自分の強み、弱み、得意なこと、苦手なこと、持っているスキル、利用可能な時間や資金などを具体的に書き出すことから始まります。この客観的な把握がなければ、無謀な目標を設定したり、逆に自分の可能性を過小評価してしまったりする可能性があります。

自己分析を通じて現在の「できること」が明確になったら、次はそれを一歩ずつ広げていく戦略を立てます。例えば、「新しい言語を習得したい」という「したい」があったとします。現在の「できること」が「挨拶程度しか話せない」レベルであったとしても、そこから「毎日15分単語を覚える」「週に一度オンライン英会話レッスンを受ける」「興味のある洋画を字幕付きで見る」といった具体的な行動に落とし込むことで、「できること」の範囲は着実に広がっていきます。この際、目標を小さく区切り、達成可能なステップを設定することが重要です。小さな成功体験は、自信となり、次のステップへのモチベーションに繋がります。

また、「できること」の拡張には、学習と実践が不可欠です。新しい知識を学ぶこと、新しいスキルを習得すること、そしてそれらを実際に試してみることが、私たちの能力を高める上で最も効果的な方法です。失敗を恐れずに挑戦し、そこから学びを得ることで、私たちはより多くの「できること」を身につけていくことができます。時には、他者の助けを借りることも重要です。メンターを見つけたり、専門家から指導を受けたりすることで、自己流では得られない知見や経験を得ることができます。

この一連のプロセスにおいて、「自己比較」は非常に有効なツールとなります。他人と比較して優劣をつけるのではなく、過去の自分と現在の自分を比較するのです。例えば、1年前の自分と比べて、どれだけの知識が増えたか、どんなスキルが身についたか、どれだけ成長したかを具体的に振り返ります。この「自己比較」によって、私たちは自分の進歩を実感し、努力が実を結んでいることを確認することができます。たとえ目標達成には至っていなくても、過去の自分からどれだけ前に進んだかを認識することで、モチベーションを維持し、さらなる成長への意欲を燃やすことができます。

「したい」という願望を抱き続けること、そして「できること」を現実的に捉え、着実に拡張していくこと。この二つのバランスが、私たちの人生を豊かにする鍵となります。理想や憧れは、私たちを前向きなエネルギーで満たし、より高みを目指す原動力となります。しかし、その実現のためには、地に足をつけて、今できることに集中し、一歩ずつ可能性を広げていく粘り強さが求められます。自己比較を通じて、自分の成長を喜び、さらなる挑戦へと向かう。この循環こそが、私たちが「したい」を「できる」に変え、理想の自分へと近づいていくための道筋となるのです。