歴史の法則性とは?成長モデルから読み解く歴史学とは?

本記事は「歴史の法則性ってどんなものなんだろう?」「歴史って一回限りのもの?繰り返すものなの?」といった疑問をお持ちの方に向けての内容となります。

本記事をお読みいただくと、歴史の法則性や成長モデルへの理解が深まるでしょう。歴史が好きな方もそうでない方も好奇心を持ってお読みいただけると嬉しいです。ちなみに僕は歴史が好きですよ。

では説明していきます。

まず歴史の法則性とはどのようなものでしょうか?

歴史の法則性、成長モデルとは?

歴史の法則性は、結論から言えば、一回性と反復性の両義的なものです。一回性とは、一回限りのことで、反復性とは、繰り返すことです。両者がお互いの効力を打ち消すこともあれば、お互いに効力を促し合うこともあります。

一回性なのが成長モデルです。反復性なのが周期モデルです。今回は成長モデルに絞って説明させていただきます。

歴史学の観点から成長モデルを説明します。まず成長モデルでは、①発展段階論と②変化の階層性と移行期という考え方について、説明します。

最初に成長モデルの全体を説明をします。成長モデルの一回性の歴史には、進歩史観的立場と、衰退史観的立場があります。進歩史観とは、世の中はだんだん良くなるという考え方であり、それに対して衰退史観とは、逆に悪くなるという考え方です。

近代歴史学では進歩史観、成長モデル採用します。この成長モデルでは歴史を右肩上がりの直線的成長、あるいは指数関数的な曲線的成長で捉えます。

発展段階論とは?マルクス主義歴史学と近代主義歴史学とは?

一方、社会制度などのハードなものの成長は、段階状に捉えてきました。これが発展段階論です。成長モデルという大きな枠組みの中に発展段階論があります。

もっとも簡単なものとして、原始→未開→文明という三段階区分があり、もっとも精緻なものとしては、マルクス主義歴史学の発展段階論、すなわち社会構成体論(社会構成史、生産様式論とも)があります。

発達段階論では、マルクス主義歴史学と近代主義歴史学を説明します。

まずマルクス主義歴史学の社会構成体論では、「下部構造が上部構造を決定する」(マルクス『経済学批判』)という考えを取ります。

下部構造とは、生産力です。上部構造とは、法律や政治、精神生活(宗教・思想・文化)などです。下部の上に上部が立脚するという構造です。下部構造を社会構成体または生活様式と呼びます。

社会構成体論が目指したのは、共産主義社会です。この社会構成体論は、日本の戦後歴史学に大きな影響を与えました。

一方、マルクス主義歴史学と似た立場として近代主義歴史学があります。主唱者である大塚久雄の名から大塚史学と呼ばれます。

大塚はマルクスに加えて、マックス・ヴェーバーの理論を取り入れました。大塚はマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に依拠し、宗教を上部構造に位置付けたマルクスを批判し、宗教が経済を牽引することもあると主張しました。

大塚は、「人間類型」や「エートス」を重視しましたが、これはヴェーバーからの影響です。

大塚は社会構成論に忠実であり、順調に発達したイギリスの近代化を理想とし、それにより日本の歴史の特殊性を浮かび上がらせようとしました。

しかしマルクス主義歴史学もそこから派生した近代主義歴史も、実証的研究による批判や国際的契機を考慮していない点から衰退していきます。まず理論が史実に合わなくなったことが挙げられ、また国際的契機を考慮している者が少数だったという点がその理由でした。

むしろ国際的契機が社会の構成に重要な役割を果たしたとする世界システム論を主張する者も現れました。イマニュエル・ウォーラーステインです。彼は16世紀に始まった資本主義から、中心・半周辺・周辺と分け、「近代世界システム」を主張しました。

そのような情勢もあり、マルクス主義は下火になっていきました。しかし社会構成体論がまったく不必要になったわけではなく、教科書の章立てなどにおいてはマルクス主義歴史学、社会構成論が必要です。すなわち時代区分には発展段階論的な思考が必要というわけです。

変化の階層性と移行期という考えとは?

次に変化の階層性と、移行期という考えについて説明します。まず変化の階層性について説明します。

フランスの歴史家のフェルナン・ブローデルは歴史の時間を三層構造に区分しました。すなわち地理的な時間、社会史、政治史です。

まず地理的時間とは、環境史に相当します。三層構造のもっとも根底をなし、もっとも変化しにくい層です。そして社会史とは、社会的な時間のことです。人間の集団の歴史です。最後に政治史とは、個人の時間のことです。ブローデルは地理的な時間を重視しました。

最後に「移行期」という考え方について説明します。「移行期」では、まず「長期の16世紀」と、そして変化の速度と質について説明します。

まずブローデルは1450年ごろから1650年ごろまでの約200年を「長期の16世紀」と呼びました。「長期の16世紀」において価格上昇が起こり、西ヨーロッパにおいて物質生活にさまざまな影響を及ぼしたとブローデルは言います。

次に変化の速度と質について説明します。まず変化の速度について説明します。

ブローデルの三層構造では、「社会的な時間」は「個人的な時間」に比べると緩慢ですが、特に遅れがちな分野として、言語史と精神史があります。例を2つあげます。

まず1つ目の例では、日本語学者の勝俣鎮夫の研究において、中世以前、以後で「サキ」と「アト」という時間認識、歴史認識に大きな転換があったと彼は推測しています。

次にもう1つ目の例としては、国語学者の野村剛史の研究では、AD1000年から1500年の方がAD1500年から現在より、日本語の変化の速度が早かったという事実を指摘しています。その原因として、彼は書き言葉の普及を挙げており、その書き言葉が見本にすべきものとして作用し、そこから逸脱することを抑制し、その結果として、変化の速度を緩慢にさせたとしています。

次に変化の質について説明します。東洋史家三上次男によれば、陶磁器の歴史から日本文化の特徴は累積性にあると言います。多くの国では、新しい技法が生まれると従来の技法は取って代わられるのですが、日本では、両者が併存して使われ、両方とも生き残ったようです。つまり文化には移り変わる文化と累積する文化があるということです。

まとめ

いかがだったでしょうか?本記事では歴史の法則性、特に成長モデルについてお伝えしました。まとめると、

  • 歴史の法則性とは、一回性と反復性の両義性のものだ
  • 成長モデルとは、特に発展段階論のことで、今や下火になっているが、まだまだ有用性はある
  • 変化の階層性とは、ブローデルの三層構造の研究であり、また変化の速度と質も一定ではなく、可変的で多様的である

ということを説明しました。本記事を参考にしていただいて、さらに歴史への好奇心を高めていただけたら幸いです。僕も歴史への造詣を深めていきたいです。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というドイツ初代宰相オットー・ビスマルクの言葉で締め括らせていただきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

『歴史学の思考法』東京大学教養学部歴史学部会編