本記事では「歴史学における史料の意味はどのようなもの?」「狭義の史料?広義の史料?何だろう?」といった疑問をお持ちの方に向けた内容になります。
本記事は『歴史学の思考法』(東京大学教養学部歴史学部会編)という書籍を参考にさせていただいております。本書は東京大学の教養課程で使用されている本です。歴史学を学びたい方にとっては有益な書籍です。
本書をお読みいただくと、「歴史学における史料の意味の範囲」について基礎理解が深まるでしょう。
さて、まず「文字史料と歴史学」とは、どのようなものでしょうか?
文字史料と歴史学とは?
まず要点としては3つあります。まず第1に、狭義の史料については、文字史料のみであるということです。そして第2に考古学については、歴史学ではカバーできない領域について取り扱います。最後に第3に民俗学,文化人類学については、現地に赴くフィールド調査も歴史学との交流があります。
歴史学において、狭義の史料とは、文字史料/文献史料のことを指します。というのは、近代歴史学が「当時の人々が書き残した記録」(同書p33)を通じて始まった学問だからです。
歴史学の対象とする「過去」は文字の出現からです。すなわち、文字のない時代(先史時代)は、歴史学の対象とする「過去」ではありません。しかしヒトの歴史は文字の出現以前から存在しましたし、文字の持たない社会でも歴史は語られていました。
そこで歴史学では扱いきれない歴史の探究に大きな役割を果たしたのが、「考古学」です。考古学はヒトによる文字以外の遺物・遺跡・遺構を主な素材として、文字出現以前のみならず以後の「過去」も対象とする、広い意味での「歴史学」(鈴木公雄『考古学入門』)です。
さらにフィールド(現地)調査においては、民俗学,文化人類学が歴史学と相互補完関係に発展していきました。
まとめると、まず歴史学において、狭義の史料とは、文字史料/文献史料のことを指します。そして考古学は、歴史学では対象としない文字以外のものも対象にします。最後に、民俗学や文化人類学のフィールド調査によって歴史学はそれらと相互補完的に発展しています。
次に「史料の多様化,歴史学の細分化」とは、どのようなものでしょうか?
史料の多様化,歴史学の細分化とは?
まず要点としては、2つあります。1つは史料の多様化としては、現在の歴史学ではあらゆる文字記録が対象になっているということです。もう1つは、歴史学の細分化としては、史料の多様化にともなって、他の学問との学際化が進んでいる、ということです。
史料の多様化については、歴史学においては、上記のように(考古学,民俗学,文化人類学などの)隣接する諸学と互いの特色を活かして共存しつつ、現存しています。
歴史学において、文字史料はもっぱら国家に関わる文書(公文書)でした。しかし今ではあらゆる文字記録がその対象となっています。たとえば、「新聞・雑誌,庶民の日記,無名の人々による「落書き」」(同書p33)などです。
さらに非文字資料については、①「モノ」自体(道具,建造物,景観や環境など)や②ヒトの意図やメッセージを表すもの(地図,絵画,音声や映像など)に二分できます。
非文字資料と文字史料を合わせて、多くの場合、資料と呼ばれますが、両者を合わせて、史資料とも呼ばれることがあります。あるいは、史料の本来の語義通りに、すべての過去の痕跡=歴史学の素材を指して、史料と呼ぶことがあります。
歴史学の細分化については、問いや史料の多様化に伴い、歴史学の細分化を招かれました。たとえば地域や時代で区切るケースがあります。細かく見ると、アメリカ史,フランス史,中国古代史,日本中世史などです。あるいは分野ごとにも細分化は起こりました。経済史,法制史,思想史,美術史などのようにです。これは隣接する他の学問の一部だということもできます。あるいは史料そのものを対象にしている学問もあります。たとえば古文書学,アーカイブズ学,文化資源学てす。
まず要点としては、2つあります。1つは史料の多様化は、歴史の細分化を引き起こしました。そして2つはその歴史学の細分化として他の学問との学際化が進み、歴史学の領域がさらに拡がっているということです。
最後に「歴史学の横断化・学際的研究の進展」とは、どのようなものでしょうか?
歴史学の横断化・学際的研究の進展
まず要点としては、2つあります。まず1つ目は、歴史学の横断化では、グローバル・ヒストリーや海域史研究が代表的であるということです。そして2つ目としては、歴史学の学際化とは、歴史学は他の学問との領域を越境して、その研究が進められているということです。
歴史学の細分化の背景には、一国史観の反省や加速するグローバル化があります。その結果、地域(特に国家)・時代・分野の枠組み超えた横断的な歴史学研究が試みられています。それがグローバル・ヒストリーや海域史研究です。それらは史料を横断的に用いる必要があるため、複数の言語の史料を扱える必要があります。そのような実践の仕方をマルチ・アーカイバル(マルチ・リンガル)アプローチといいます。
歴史学の学際的研究においては、民俗学,社会学,政治学,建築学など他の学問と連携をとり、史料については、柔軟な利用がされるようになりました。
だがこのような学術的な協業・融合がなされたからといって、学術的課題がすべてが解決するというわけではありません。それどころか課題も新たに見つかりました。それは、歴史学と水中考古学の1872年に沈没したイギリスのベナレス号についての共同研究によってでした。詳細は省きますが、歴史学だけで捉えられない大きな歴史像が発見されました。それ自体が大きな発見でした。学際的研究は歴史学の垣根を越えて、新たな発見のためにも、これからより積極的に取り組まれていくことを望みます。
まず要点としては、2つあります。まず1つ目は、歴史学の横断化では、史料を複数の言語を通して多角的に解釈するマルチ・アーカイバル(マルチ・リンガル)アプローチが実践されています。そして2つ目としては、歴史学の学際化とは、歴史学以外の他分野と協力して、歴史学自体の発展が行われることです。
まとめ
いかがだったでしょうか?本記事では「歴史学における史料の意味はどのようなもの?」「狭義の史料?広義の史料?何だろう?」といった疑問をお持ちの方に向けて、『歴史学の思考法』(東京大学教養学部歴史学部会編)という書籍を参考に、みなさまの疑問の解決に努めてまいりました。まとめると以下になります。
- 歴史学は、当初は文字史料のみを対象していたが、考古学や民俗学,文化人類学などとも連携していった
- 当初と比べて、現在では非文字資料も活用されるようになったし、それにより、歴史学の地域や時代、分野も細分化された
- 横断的・学際的研究として、グローバル・ヒストリーや海域史研究などがあり、歴史学は他の分野の学問と協働し、新たな分野の開拓をしていくことが望まれる
参考文献
東京大学教養学部歴史学部会『歴史学の思考法』
鈴木公雄『考古学入門』